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大野木一彦のJOURNAL・ブルースハープ・ライブ・レッスン情報

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2006年 07月 08日

JOURNAL

猛烈な懐かしさに突き動かされるように半村良「たそがれ酒場」を購入、一気に読む。直木賞受賞の「雨やどり」を含む「新宿馬鹿物語」は七十年代の出版。多少設定は変わっているが前シリーズと同じく生涯酒場一筋のバーテン、仙田を狂言回しに据えて、こちらはバブル崩壊後の九十年代半ばの上梓。僕は手当たり次第の活字中毒者ではないが、嗜好には幅がある方だろう。「新宿馬鹿物語」は文庫本がボロボロになるほど繰り返し読んだ。目新しい実験も前衛的な試みもないが、ここには濃密な安心感がある。多少描写に世代的なずれ(作者は日本SFの草創期を支えた人、僕の親の世代ですからね)が目に付いても、「そうこなくちゃ」とか、「巧いこという!」という独り言を繰り返すうちにすぐに読めてしまう。そして気が滅入る夜更けには何度でも読み返せる。SFの分野で巨大な仕事をした人だが、スマートなするめ、とでも呼びたい作劇術の魅力は、こうした人情風俗小説に、より端的にあらわれている。

by nogioh | 2006-07-08 01:40


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