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大野木一彦のJOURNAL・ブルースハープ・ライブ・レッスン情報

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2007年 06月 12日

JOURNAL

あまりにも良くない日だったので何も書かないでおこうと思ったが、稀有、と言いたいほど愚劣で汚らわしいタイプの人間に遇った日だったので、それだけは忘れないように書き留めておく。こういう人間がいる限り戦争は絶対なくならないし、無抵抗な幼児や浮浪者を殺す無軌道な暴力も増殖し続けるだろうと思わせる人物だった。毛羽立った気持ちでいたら、遠い昔、さる人から聞いた話を思い出した。その人は住んでいたマンションに据え付けのコインランドリーで洗濯しようとして、故障したマシーンに、持っていた小銭を全部取られ、結局服を洗えなかった。三台並んでいるマシーンは全部空いていたが、隣のを使ってみる気はすぐ失せた。疲れていたし、得体の知れない怒りがその人を捉えてしまったのだ。深夜なのでマンションの管理会社にも大家にも電話が通じない。苦情は後回しにして、その人はジャックナイフで壊れた洗濯機の電源コードを切断しようと思った。寝静まったマンションの中二階で、静かにコンセントを抜いて、コードに刃を当てて一気に弾いた。閃光が目を直撃し、爆音がコンクリートに反響した。飛び散っ火花が手の甲に火傷を作った。マシーンは三台。その人はおそらく、引き抜くコードを誤ったのだ。感電もあっただろうが、それは大事にはいたらず、その人はとにかく動転してしまって逃げた。自分の暮らすマンションから走り去ったのだ。住宅街から離れ、中学校の裏の土手まで走ろうと思ったが、途中で息が切れて止まってしまったという。右手に握ったまま、刃をしまうことすら忘れていたナイフを街灯に翳してみると、刃は所々吹き飛ばされ、ぼろぼろになっていた。空き地に面した側溝にナイフを捨てようとしたが、右手の指は硬直して動かなかった。その人は左手を使って一本ずつナイフの柄から指を引き剥がすようにして、ようやくナイフは溝に落ちた。真冬なのに汗だくになって、その人曰く「自首する気分で」マンションに戻った。爆音自体、その人が思ったよりずっと小さいものだったのか、騒ぎになっている様子もなく、建物は静まり返っていたという。人を刺したみたいだった、とその人は云った。確かにその人が切ったコードは単にコードだったわけではない。閃光も爆音も動かない指も、いやというほど、その事をその人に教えこんだのだったと思う。

by nogioh | 2007-06-12 01:30


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