車の中で行う出張レッスンから帰り着いて、深夜ジョージー・フェイムを聴きながら靴を手入れしていた。(なぜ深夜に靴を磨くのか?僕には、何となく心落ち着かない時、すぐに眠れそうにない時、靴の手入れをすると心が鎮まるという変な癖があるからだ)スエードの長靴にブラシをかけていたらアメリカに旅行した時のことを思い出した。初日にバスを逃し、暗い住宅街をさんざん迷って歩き回り、ホテルまで帰り着くと履いていった靴のソールがベロッと剥がれていた。REGALの黒い革製のスニーカーだった。僕の感覚ではそんなに安くなかったし、まだまだ新しかったので、あれはきっとハズレを掴まされたのだろう。ともかく靴を買う必要が出来て、次の日僕は大きな靴屋に行った。ベージュのスエードのスニーカーがとても廉価で、履くとぴったりだったので購入した。旅の間、その靴のおかげで快適に過ごせた。日本に戻ってからその靴のベロの裏っ側を改めて見ると、人工皮革、の記載があった。道理で安かったわけだが、とてもよく出来ていて、ぱっと見ただけでは全然判らないし、触っても判らなかった。その後も気に入ってしょっちゅう履いていたので1年かそこらで潰れてしまった。捨てる時、記念に写真を撮った。あの安物の、とても履き心地の良かった偽スエードの靴は、そういう訳で個人的アメリカの象徴みたいになっています。