最近見た映画「希望の灯り」。ジャケットからして地味そうで実際物凄く静かで地味な映画だった。旧東ドイツの大きなスーパーマーケットが舞台で、そこに働く人々を描いた作品で、政治的な変遷に翻弄された庶民の姿をクールに、そして根本的には肯定的に描いた物語で好感が持てた。僕はこれの原作(クレメンス・マイヤーの短編。この人が脚本も書いている)も読んでいてそちらもなかなか面白かった。希望の灯り、というほど燦然と輝く事態には全然至らない、どちらかと言えば辛く単調な現実の中、つつましく輝くささやかな喜び、仄かな期待感、そういうものに目を凝らした物語。原題は「通路にて」。誰もが共鳴する部分はあるだろうと感じながら見ていた。でも、あまりにも何も起こらないので、この映画をつまらないと感じる人も沢山いるだろう。人生には物凄く沢山、色んな事が起こるが、ハリウッド映画的な場面などまずない。
もう一本、「ベン・イズ・バック」。サスペンス仕立てだが、シリアスでリアルな家族の話。アメリカ映画だが、こちらもいわゆるハリウッド的な派手な要素は皆無。現代アメリカのある暗い側面に正面から向き合ったヘビーな話だ。薬物中毒について、へえ、と思う事もあった。主人公ベンの母親役ジュリア・ロバーツの鬼気迫る熱演がまことに素晴らしい。