明日で一月が終わるのである。冬の、一番冬らしい、憩いの時間(そのわりには鬱屈して過ごしているのだが)が去ろうとするのだ。なんと悲しいことだろう。何もかも弛んで、視界の悪い、寝小便みたいな魔の季節が来るのである。虫も一杯生まれるのである。なんとなく、主に明治生まれの、私小説の作家達の文章を思い出しながら、書いている。心荒む綱渡りみたいな日々がかつてあり、尾崎一雄、藤枝静男、上林暁等の本は薬だった。春だの夏だの、忌まわしいものどもの到来を思うと、行き暮れてそれだけで疲れてしまう。優れた古い私小説の、揺らめき立つような、時に超現実の境をも垣間見せてしまう怖さ、にもう一度耽溺したくなる。