夜、教え子であり友人でもあるO君のメールに誘われてテンホールズキッチンに行った。他に客がいなかったのでマスターと三人だった。それぞれが否応なく抱え持つ日常の鬱憤を晴らそうとするためか、鬼気迫る勢いで音楽談義が白熱した。あとから景色として振り返ると可笑しい。可笑しみと哀しみは紙一重だ。フィリップ・ウォーカーのライブ盤を聴かせてもらった。サンフランシスコのビスケットアンドブルースという店での2003年6月のライブ録音。僕がアメリカに行った約一月前だ。この店にも数日間通った。途中一曲だけ登場して2コーラス吹いているリック・エストリンのハーモニカは凄まじい。自分のフレーズが聴衆にもたらすインパクトを完全に知悉しているんだな、この人は。タングブロックと、パッカリング、二つの奏法の使い分けも実に個性がある。彼の地元サクラメントでのショウの後、恐々話し掛けたら、無人のステージに僕を上げてアンプとマイクを見せてくれ、そのカスタムアンプの店の名刺をくれた。「Keep it in your mouth!」とサインしてもらったTシャツは着れないまま畳んでしまってあるが、すでに折り目が焼けて黄ばみ始めている。